あれは、一昨年の冬のことでした。築25年になる我が家のバスルームは、至る所に時代の流れを感じさせていました。高梁市の水道局指定業者で配管交換した漏水の水道修理に、くすんで細かなひび割れが無数に入った浴槽は、一日の疲れを癒すどころか、見るたびに溜め息が出る悩みの種。いつかはリフォームしたいと夢見ていた私は、ついに意を決し、浴槽の交換に踏み切ることにしたのです。しかし、この決断が、まさか我が家を悪夢の淵に突き落とすことになるとは、この時の私には知る由もありませんでした。 私の過ちは、全て「業者選び」から始まりました。もちろん、私も最初は慎重でした。インターネットで近隣のリフォーム会社を3社ほどリストアップし、それぞれから相見積もりを取ったのです。A社とB社は、いずれも丁寧な現地調査の上で、ほぼ同額の見積もりを提示してきました。その額は、私の想定よりも少し高めのものでした。そんな中、C社だけが、他の2社よりも3割近くも安い、破格の金額を提示してきたのです。井手町の水漏れトラブルに専門チームからその見積書は、他の2社に比べて項目が大雑把で、「一式」という言葉が多用されていましたが、「企業努力で安くできるんです」という営業担当者の笑顔に、私の心は完全に傾いていました。少しの不安はありましたが、「安さに勝る正義はない」と自分に言い聞かせ、私はC社との契約書にハンコを押してしまったのです。 工事当日、その予感はすぐに悪い形で的中しました。約束の時間に遅れてやってきた職人たちは、ろくな挨拶もせず、土足で家に上がり込もうとします。慌てて注意すると、舌打ちをしながら面倒くさそうに靴を脱ぐ始末。養生も、廊下に薄いビニールシートを一枚敷いただけというお粗末さで、案の定、古い浴槽を運び出す際に壁紙に黒い擦り傷がつけられてしまいました。抗議しても、「作業していればこれくらいは仕方ない」と取り合ってもらえません。工事の音もすさまじく、近隣への配慮など微塵も感じられない、不安と不快感だけが募る一日でした。 数時間後、「終わりました」という声と共に、新しい浴槽がお披露目されました。一見すると、ピカピカの浴槽が設置され、問題ないように見えました。しかし、よく見ると、浴槽と壁の隙間を埋めるコーキングはガタガタで、素人がやったのかと思うほどの酷い仕上がり。不安に思いつつも、その日は代金を支払い、職人たちを帰しました。そして、その夜。待ちに待った新しいお風呂に一番乗りしようとお湯を張った瞬間、どこからか「チョロチョロ…」という微かな水音が聞こえるのです。浴槽の周りを見ても漏れている様子はありません。気のせいかと思おうとしましたが、その音は一向に止みませんでした。 決定的な悲劇が訪れたのは、その翌日です。階下の部屋の天井に、じわじわと広がる茶色いシミを発見したのです。血の気が引きました。あの水音は、浴槽の裏側、見えない部分で起きていた水漏れだったのです。私は震える手でC社に電話をかけましたが、あれほど愛想の良かった担当者の態度は豹変。「うちの工事が原因とは断定できない」「保証の対象外だ」の一点張りで、最終的には電話にすら出なくなってしまいました。 結局、私は最初にまともな見積もりを出してくれたA社に泣きつき、全てをやり直してもらうことになりました。A社の調査で、C社の工事は給排水管の接続が不完全で、防水処理も極めてずさんだったことが判明。私は、C社に支払った工事費に加え、A社への再工事費用、そして階下の天井の修繕費用という、当初の予算を大幅に超える手痛い出費を強いられたのです。安物買いは、結局、最も高くつきました。これから浴槽交換を考えている方へ。どうか、私の失敗を教訓にしてください。あなたが選ぶべきは、目先の安さではありません。詳細な見積もりと丁寧な説明、そして何より、長期的な安心を保証してくれる誠実なパートナーなのです。
安物買いの銭失い浴槽交換で私が体験した悪夢