排水口の流れが悪くなった時、私たちが最初に頼るのは、ドラッグストアの棚で微笑みかける、色とりどりの液体パイプクリーナーたちだ。それらは「注ぐだけ」「置くだけ」で、まるで魔法のように詰まりを解消してくれると約束してくれる。彦根でも配管を交換する漏水ではトイレつまりから、長年の経験から言わせてもらえば、その約束の多くは、叶わぬ恋のように儚い。特に、ある程度進行してしまった詰まりに対して、液体パイプクリーナーは「気休め」以上の効果をもたらさないことがほとんどだ。それは、風邪のひきはじめに栄養ドリンクを飲むようなもので、根本的な治療にはなっていない。 なぜ、あれほど強力そうに見える液体が効かないのか。配管専門修理が増えている川西町ではリフォームが、排水管の詰まりの正体が、私たちが想像するよりもずっと強固で、複雑な構造をしているからだ。浴室の詰まりは、ただ髪の毛が浮いているわけではない。長い髪の毛が網の目のように絡み合い、そこに体から出た皮脂や石鹸カス、カビなどが粘土のように練り込まれ、まるでフェルトのように圧縮された塊となっている。キッチンの場合はさらに厄介だ。調理油が冷えて固まったラード状の物質に、細かい野菜くずやご飯粒が混ざり合い、セメントのように硬化した状態で配管の内側にびっしりと張り付いている。液体クリーナーが届くのは、その巨大な氷山の、ほんの表面だけ。内部にまで浸透し、その構造を完全に破壊するほどの力はないのだ。 そして、この「気休め」が効かなかった時、人々はより直接的で、暴力的な解決策に手を伸ばしがちだ。それが、ワイヤー式パイプクリーナーである。その金属製の無骨な姿は、いかにも物理的な力で問題を解決してくれそうな頼もしさを感じさせる。しかし、素人がこの道具に手を出すことは、麻酔なしで自分の虫歯を削ろうとするような、無謀で危険な行為に他ならない。 私がこれまで見てきた「ワイヤーが招く悲劇」は、数えきれない。最も多いのは、排水管のカーブでワイヤーが曲がってしまい、抜けなくなるケースだ。詰まりを取るはずの道具が、新たな詰まりの原因となる。こうなると、床や壁を壊して配管ごと交換するしかなく、修理費用は何十倍にも跳ね上がる。次に多いのが、配管の破損だ。特に、古い建物の劣化した塩ビ管に、金属のワイヤーで力をかければどうなるか。結果は想像に難くない。管に亀裂が入り、あるいは穴が開き、じわじわと床下へ水が漏れ出す。気づいた頃には、階下の天井に巨大なシミができている、という最悪のシナリオだ。そうなれば、もはや単なる水回りトラブルではなく、多額の損害賠償を伴う近隣トラブルへと発展する。 液体パイプクリーナーは、詰まりの「予防」として、日常的に使う分には意味があるだろう。しかし、一度詰まりという「病気」が発症してしまったら、市販の薬で治そうとするのは諦めた方がいい。ましてや、知識のないままメス(ワイヤー)を握るなど、論外だ。流れが悪いと感じたら、それは排水管からのSOSサイン。そのサインを無視し続け、素人療法で悪化させた末に我々専門業者に泣きついてくるお客様を、私はもう見たくない。詰まりは、時間と労力、そしてお金の無駄を最小限に抑えるためにも、初期段階で専門医に診せるのが最も賢明な選択なのだ。あなたの家の排水管は、あなたの無謀な挑戦を待ち望んではいない。ただ、静かに、そして確実に助けを求めているのである。